が、しかし僕の見るところでは、あの女が知っている者に相違ないと思うのだ。だってもしそうでないとしたら、何もあの女が接近するのを、そんなに一生懸命で遁げる必要はないと思うからね。[#「。」は底本では欠落]君はその者がハンドルの上に身をこごめたと云うが、それもすなわち、顔をかくしたのだろう。君は全く徹頭徹尾間違ったよ。その者は家に帰り、君はその者の正体をつき止めようとして、ロンドンの、貸家の差配人のところに来る、――」
「じゃ僕は、どうすればよかったのだね?」
私はちょっと逆上《のぼ》せ気味になって叫んだ。
「そりゃ近所の居酒屋にとびこむのさ。そこはその地方の噂《ゴシップ》の中心だ。そこに集《あつま》ってる者共は君に主人から食器洗いの者までの名前を教えてくれるだろう。そうウィリアムソンと云ったね! しかしこの名前は、僕にも何の心当りもないな。しかしそれがもう相当の年配とすれば、あの活溌な若い自転車嬢さんに追跡されて、霞をくらって遁げた、素ばしっこい男なはずはないね。さてこうなってみると、君の御苦労な遠征で得たものは何んだろうね? なるほどあの娘さんの云ったことは逐一事実であると云うことは
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