ン・ウィリアム会社には、常に百万|磅《ポンド》以上に相当する株券、債券、あるいは保証金などのあるため、番人を常備しありたる上、支配人は用心深く、彼が負わされているそれらの重用物件のために、最新式の金庫を数個用意し、その上ビルディング内には、昼夜の別なく見張人を残しありたるなり。ちょうど先週より、事務所に雇われたるホール・ピイクロフトと云う、新しき書記現れたり。この男こそ、かの有名なる偽造者にして強盗犯人たるベディッグトン以外の何者でもなかりしなり。彼は彼の兄弟と共に、最近五年間の牢獄生活より出たるばかりの男。しかるにいかなる方法にてか、その方法は未だに不明なるも、偽名を用いてうまうまと事務所の事務員の位置をかち得たるなり。そは事務所内のあらゆる鍵の合鍵と、堅固なる部屋と金庫のある位置とに関しての知識を得んがために、利用したるなり。
 モウソンの事務所にては、土曜日は事務員たちは半日にて帰ることを習慣となせり。しかるに一時二十分すぎに、一人の紳士、革の袋を持ちて事務所の階段を下り来たるを見て、市内の巡視のテュウソン巡査部長は少なからず不審に思い、疑いを起こしたり。すなわち部長はその男を尾
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