その医院を買うまでに一年に千二百人からあった患者が三百人ほどもないくらいにまで減ってしまった。けれども私は、私の若さと体力とに自信があったので、二三年の間には昔と同様に繁盛するだろうと確信していた。
私は仕事を始め出してから三ヶ月の間、最も熱心に注意深く働いた。そのため、私はベーカー街に行くには余りにいそがしすぎて、ほとんどシャーロック・ホームズと会わなかった。そして彼自身も、自分の職業上の仕事以外には、どこへも出かけなかった。それ故、六月のある朝、朝飯《あさはん》をすましてブリティッシ・メディカル・雑誌を読んでいると、玄関のベルが鳴り、つづいて私の親友の大きな甲高い調子の声がきこえて来たので、私はびっくりした。
「やあ、ワトソン君」
彼は部屋の中に這入《はい》って来ると云った。
「君に会えて嬉しいよ。――君は例の『四つの暗号』事件以来、からだはすっかりいいんだろう?」
「有難う。――お蔭さまで二人とも丈夫だよ」
私は彼と友情のこもった握手をしながら云った。
「そう。そりア結構。けれどその上に……」
と、彼は廻転椅子の上に腰をおろしながらつづけた。
「医者の仕事に本気になりすぎ
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