くなかったからなんです。もし私がもっと悧巧《りこう》だったらそんなに用心深くはしなかったんでしょうが、私はあなたにこの事実を知られたくないと云う恐れで半分気がどうかしていたんですわ。――あの離家に誰か来たと初めて私に話して下さったのはあなたでしたわね。私朝まで待とうと思ったんですのよ。けれど昂奮してどうしても寝られなかったの。それで私、あなたの目を醒《さま》さない様にするにはどんなにむずかしいかと云う事はよく知っていましたけれど、とうとう抜け出したんですわ、ところがあなたは私の行くのを見ていらした。そしてそれが私達の事件のはじまりでした。――その翌日、私はあなたに私の秘密をきかれました。が、あなたはそれをしつこくおききになりませんでした。けれどそれから三日目のことです。あなたが表口《おもてぐち》から飛び込んで来られた時、やっとのことで乳母と子供とを裏口から逃がしたのは。――でも、今夜はとうとう何もかもあからさまになってしまいました。これから私たち――、私の子供と私とは、どんな風にでもなりますわ、それをおっしゃって下さい」
 彼女は両手をかたく握り合せて、彼女の夫の言葉を待った。
 二分
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