ちに、私について中に這入って来ました。
「ごめんなさい、約束を破って。ジャック」
彼女は云いました。
「けれどもしあなたが、すべての事情を知って下すったら、きっと私を許して下さると思うわ」
「じア、すっかりお話し」
と、私は云いました。
「話せないのジャック、話すことは出来ないの」
彼女は叫びました。
「あの離れ家の中に住んでいるのは何者だか、そしてまた、お前があの肖像をやったのは何者だか、それをお前が話すまでは、私たちの間は夫婦でもなんでもないんだ」
私はそう云うと、彼女から逃げて家《うち》を出てしまいました。――ホームズさん。それが昨日の事なんです。それ以来私は彼女に会いませんし、従ってこの奇妙な事件についても何も知りません。これは私達夫婦の間にかもされた最初の暗い影なのです。そして私はさんざん頭を悩ましたけれど、どうしたら一番よいのか分からないのです。――するとけさのことでした、ふと私は、あなたなら私の相談に乗って下さると思いついて、いそいでやって来たんです。そして何もかも腹臓《ふくぞう》なく申上げてあなたのお手にすがったわけなんです。――まだもしどこかはっきりしない点が
前へ
次へ
全47ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング