た。
「一体これはどうしたと云うんだ」
と、彼は叫んだ。
「その訳を申し上げましょう」
と、ツンとすまして、こわばった表情をして、エフィは部屋の中に忍び込んで来ながらさけんだ。
「しゃべるまいと思っていたのに、とうとう話させられる様なことに、なってしまいました。けれど今こそ、私達は最善の方法でそれを解決しなければなりません。――私の夫はアトランタで死んだのです。そして私の子供は生きながらえました」
「お前の子供!」
彼女は彼女の懐から小さな箱を引き出した。
「あなたはこの箱を開けて御《ご》らんになったことはありませんね」
「それは開かないものだと思っていたよ」
彼女はバネ[#「バネ」に傍点]を押して蓋を開けた。するとその中から……すばらしく上品な美しい、そして聡明[#「聡明」は底本では「聴明」]そうな男の肖像が出て来た。しかしその表情の中には、疑いもなくアフリカ人系統の容貌が現らわれていた。
「これがアトランタにいた、ジョン・ヘブロンです」
と彼女は云った。
「この人より上品な人はありません。私は彼と結婚するために、私の一族と義絶しました。でも彼が生きている間は、一瞬間でもそれを後悔したことはございませんでしたの、――けれど、私達のこの子供だけが、私の子供としてよりも、むしろ彼の人種の後継として残ったと云うことは、私共の不幸でございました。こう云うことは、こう云う結婚にはよくあることには違いありません。でも可愛《かあ》いいルーシーは彼女の父親より、もっと色が黒いんですの。だけど黒くっても可愛いい。――彼女は私の可愛いい可愛いい娘ですもの。そして彼女の母親のペットですもの」
彼女がこう云い終った時、その小さな娘は飛んで来て彼女の着物にまつわりついた。
「私が彼女をアメリカへ残して来たのは……」
と彼女は言葉をついだ。
「ただ、彼女の健康がすぐれなくて、彼女に万一のことがあってはならないと思ったからだけですもの。で彼女は前に私共の女中だった信用の出来る、スコットランド人の婦人に、世話を頼んでおきました。私はたとえ、一瞬間でも彼女を捨てよう等と夢想したこともありませんでしたわ。けれどもたまたまあなたと云うものが私の前に現らわれて、私があなたを恋する様になった時、あなたに私の子供のことをお話しかねたのです。ジャック。どうか私を勘弁して下さいね。私、あなたに捨て
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