いようとおかまいなしに、海の中へなげ込んだ。その中に一人、ひどく傷ついた下士官がいたが、彼は驚くほど長い間泳いでいた。が、誰かがその頭をうちぬいてしまった。こうして戦いは終って、今では私たちの敵は、番兵と助手と医者とをのぞいてはただの一人も、その船の中にはいなくなった。
と、そのとき大喧嘩が持ち上った。と云うのは、私たちの大部分は、私たちの自由を取り戻すことの出来るのを喜んではいたが、しかし人殺ろしをすることを望んではいなかった。ところが私たちは、一つ兵士たちを、彼等の持っている鉄砲でなぐりつけ、もう一つは、その部下たちを惨酷《ざんこく》にも殺ろす間、その側に立っていなければならないのだった。そのため私たち八人のものは、――犯罪人が五人と水夫が三人と、これだけはどうしてもそれは出来ないと云った。しかしそれは少しもプレンダーガストとそしてその仲間を動かすことは出来なかった。私たちの自由を獲得するただ一つの方法は、どこまでもこの計画をやり通して、跡に禍いの残らないようにすることだ、と彼は云った。そして彼は、後になって、証人などのために苦労することがないように、みんな銃殺してしまうつもりらしかった。が、彼は遂に云った。もし私たちが望みなら、ボートに乗って、その船から立ってくれてもいいと。私たちはこの申出を喜んだ。なぜなら私たちはもうこの血に飢えたような行為にあきあきしていたから。そして更に私たちは、血醒《ちなまぐさ》い行為がくり返えされないではいないことが分かっていたから。――そこで私たちは、お互いに水夫の服を一着と、水の瓶を一つと、樽を二つ、一つは牛肉の樽で一つはビスケット、――それからコンパスとそれだけをもらった。プレンダーガストは私たちに海図を投げてくれながら、自分たちは難船した水夫で、その船は北緯十五度、西経二十五度の所で沈んだと云えと云った。そうして私たちは綱を切って出発したのであった。
私の可愛い子供よ、いよいよ私の話の一番の山へ這入って来た。――こうして、私たちがその船を去った時、その船の水夫たちは帆を張り直した。そうしてその時、軽い風が北東から吹いていたので、その船は私たちから次第に遠去《とおざ》かっていった。私たちのボートはそれから、長い滑らかなローラーの上を昇ったりおりたりしながらただよった。私とエヴァンスとは、その仲間のうちでは一番教養があったので、
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