出して、一様に不愉快な気持ちを抱《いだ》いてそこへ行った。
 「皆そろったね」と船長はチーフメーツに言った。
 「ええ、これで全部です」チーフメーツは答えた。
 「それじゃ、いい渡してください」
 「ボースン、小倉、宇野、西沢、とこの四人は、下船命令、藤原、波田も同様皆、僕と一緒に海事局まで行ってくれ、それから、藤原と波田とは海事局には行かないでよろしい。手帳はあとで渡すから。二人《ふたり》は警察の方で用事があるそうだから」それが宣告であった。そして彼は、つけ加えを忘れなかった。「だから、おれが室蘭で、よした方がいいと言ったんだ。お前らが、いくら威張ってもあかん。それよりおとなしくした方が得だ。おとなしくしとれば、人の憐《あわれ》みもかかるが、強いことをいうと、こういう際にだれも相手になり手がないからな」
 「自分によくいって聞かせとくがいいや、おれらのことならお世話にゃならないや。道が異《ちが》ってるんだからなあ。そのうちどんなお礼をするか覚えてろ!」波田は怒鳴りつけた。
 「あれが波田ってやつです。あんな乱暴なやつです!」船長が言った。
 「何を! べら棒め! 死にかけた人間を打っちゃらかしとくようなやつが、人のことがいえるかい。手前《てめえ》より乱暴なやつはねえんだぞ、圧搾器め!」波田は船長をも怒鳴りつけた。
 「マ、せいぜいあばれて、警察で油をしぼられるがいいさ」船長は言った。
 「おれの出て来るまで、手前は丈夫で生きているように、おれは祈ってらあ。途中で燃やされちゃわねえように気をつけな」
 だが、船長は、早速《さっそく》引っ込んでしまった。
 チーフメーツは、ボースン、小倉、宇野、西沢を連れて、二人の警官と共に海事局に行った。
 彼らはそこで物の見事に首を馘《き》られた。
 これが十二月三十一日だ。
 藤原と波田とはランチで水上署へ行った。
 正月の四日までは警察も休みだった。従って、藤原と波田は、留置所の中で正月を休むことができた。
 彼らは正月の仕事初めから、司法で調べを受けた。そして治安警察法で検事局へ送られた。
 検事は彼らを取り調べるために、彼らを監獄の未決監に拘禁した。
 彼らには面会人も差し入れもなかった。あたかも彼らは禁錮《きんこ》刑囚のように、監房の板壁をながめた。
 食事窓や、のぞき窓や、その他のすき間からは、剃刀《かみそり》の刃のよ
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