のであった。
一方チーフメーツは投錨《とうびょう》と共に、通い船に乗って水上署へおもむいた。そして、そこで室蘭であった一部始終を話した。――彼はボーイ長のことは話すのを忘れた――それはきっと藤原の煽動《せんどう》だ。ことに波田はメスを抜いてわれわれを脅迫した。彼らはきっと暴行に訴えてもその実行を迫るだろうから、本船へ出張の上保護を加えてもらいたいと願い出た。
水上署のランチは、チーフメーツと共に、屈強なる巡査五、六名を載せて、威勢よく出動した。
ランチは万寿丸のタラップについた。チーフメーツは警官たちをサロンに案内した。そこで、巡査諸君は、りんごと、菓子と、コーヒーとの「前で」しばらく待たなければならなかった。
水夫たちは、ウインチに油をさしたり、種々な道具類を片づけたりしていた。そして彼らは、「その夜は、明日《あす》の朝まで、つまり正月の朝まで帰らないでいい上陸ができる」と考えて、愉快な気持ちになって働いていた。確かに、彼らは、当分、船に帰らないでもいい上陸によって、待ち受けられていたのだ。
船長は、今は、前航海の、夜中におけるサンパンの中の船長でも、出船前の室蘭における彼でもなかった。彼は今は暴力的であり得た。最も露骨なタイラントだった。
船長の命を受けたとものボーイは、おもてへ来た。そして、ボースンに言った。
「ボースン、荷物を片づけて、下船の用意をして、ボースンと、藤原と、波田と、西沢と、小倉と、宇野と、サロンまで来いと、船長がいったよ。それからね、オイ」彼は今度は彼自身の部分の話に移った。「水上署の巡査が十五、六人サロンへ来て待ってるぜ、きっと波田があばれると思って連れて来たんだぜ。すこしあばれた方がいいんだ全く。皆にそういってくれよ、いいかい」彼は、ともへと帰って行った。
そのことは、もう皆に特に通知するまでもなかった。とものボーイが来れば、何かの命令だということはわかるので、水夫たちはボースンの室の前で立って聞いていた。
「まずかった!」藤原は感じた。「しかし、これほど徹底的だとは思わなかった。これじゃまるで船はカラッポだ! だが!」彼はじっと我慢した。彼にはもう彼が歩いて行く道筋がハッキリわかっていた。それは白くかわいた埃《ほこり》っぽい道である。沙漠《さばく》のように、人類を飢餓と渇とに追いやるところの道であった。
波田もさとっ
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