ハッハハハハハ」とうとう船長も、あまりのストキの言葉にふき出してしまった。「恐ろしい資本家もあったものだ! ハッハッハハハハハ、蚤《のみ》と南京虫《なんきんむし》のだろう!」
メーツらは皆笑った。セーラーたちが、資本家とは珍しい言葉だった。
「もし、私たちを資本家だと思っていないのならば、奴隷《どれい》と思ってるだけです。私たちの売ることのできるものは、私たちの労働だけです。つまり『からだ』だけです。だが、それも、私たちのものでないと考えられるならば奴隷だ、と考えられることになるのでしょう。しかし、奴隷だったら、なぜその奴隷の生命を大切にしませんか。奴隷は、あなたたちの財産じゃありませんか。私たちの生命が、あなたたちにとって、まるで、どうでもいいものになったのは、私たちが奴隷から、資本家、すなわち賃銀奴隷になったからです。それは、とっかえるほど新しい、いい商品が、無限にあるからです。
それに、私たちは、いつまでも、どんな奴隷ででもありたくはなくなったんです。どんな機会にでも私たちは、私たちを縛る鉄の鎖を打ち切る用意をしているのです。
私たちは、人間として、生きようとしているのです。そこへ持って来て、どうです! 私たちは蚤と南京虫の資本家! なんでしょう、私たちは、その要求が通ればよし、通らなければ、私たちの力がどのくらいあるかを、お目にかけるまでです」
ストキは最後の言葉に、力をこめて言い切った。
「フン、それもよかろう。だが何かね。波田、おまえは自分から進んで、この要求書に捺印《なついん》したんじゃないだろうな。だれかが、お前を煽動《せんどう》したんだろうな」船長は、方向を転換した。
「私は、どの船でもストライクの種を、見つける役目をするつもりで、船のりになったんです。私は、この船に乗った最初の日から、風呂場《ふろば》のないことでも、ストライクがやれると考えていたのです」便所|掃除人《そうじにん》波田は、風呂場のないことに、だれよりも、苦痛を感じていたのだ。それに、彼は、若くて新しい社会の空気を吸っていたのだ。船長はこの無邪気な、彼の便所を彼の居室よりも、金具などきれいにみがき上げるこのきれい好きな、忠実な青年が「過激派」であろうとは思わなかった。それに「こいつはストライクを見つけて歩くなどと、抜かしやがる! まるで、こいつらはパルチザンだ!」
船
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