捨てるほどぞかし。それよりも不思議は、一生にただ一度の思ひは残る木曾川の停車場とて田の中に茶屋三軒、その一軒に憩ひて汽車待ち合はせしに、丸顔に眼涼しく色黒き女、十六ばかりに何の見処もなきが、これはまた如何にしてか心の奥までしみこんで、ここに一夜を明す言ひ草まだ考へつかぬ内に、汽車が参りました、お急ぎなされませ、と彼女かひがひしく我が荷物さきに持ちて走るに我もおくれじと汽車に走りこみける。その無邪気な顔どうしても今に忘られず。大方三人の子はあるべし。[#地から2字上げ]〔『ホトトギス』第二巻第十号 明治32[#「32」は縦中横]・7・20[#「20」は縦中横]〕
底本:「飯待つ間」岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年3月18日第1刷発行
2001(平成13)年11月7日第10刷発行
底本の親本:「子規全集 第十二巻」講談社
1975(昭和50)年10月刊
初出:「ホトトギス 第二巻第十号」
1899(明治32)年7月20日
※底本では、表題の下に「今西鶴」と記載されています。
入力:ゆうき
校正:noriko saito
2010年4月22日作成
2010年5月28日修正
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