めぬ穴の芒かなサ、少しは善いやうだナ、少し善ければそれで我慢して置いて安楽に往生するサ、迷はずに往つてくれたまへ、迷つたら帰つて来るヨ……イヤに静かになつた。誰やらシク/\泣いてるやうだ。抹香の匂ひがしやアガラ。此匂ひは生きてる内から余り好きでも無かつたが死んで後も矢張善く無いヨ、何だか胸につまるやうで。胸につまるといへばからだが窮屈だね。こリヤ樒の葉でおれのからだを詰めたに違ひない。棺を詰めるのは花にしてくれといつて置くのを忘れたから今更仕方が無い。オヤ動き出したぞ。墓地へ行くのだナ。人の足音や車の軋る音で察するに会葬者は約百人、新聞流でいへば無慮三百人はあるだらう。先づおれの葬式として不足も言へまい。……アヽやう/\死に心地になつた。さつき柩を舁ぎ出された迄は覚えて居たが、其後は道々棺で揺られたのと寺で鐘太鼓ではやされたので全く逆上してしまつて、惜い哉木蓮屁茶居士などゝいふものはかすかに聞えたが、其後は人事不省だつた。少し今、ガタといふ音で始めて気がついたが、いよ/\こりや三尺地の下に埋められたと見えるテ。静かだツて淋しいツて丸で娑婆でいふ寂寞だの蕭森だのとは違つてるよ。地獄の空気
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