ぞ得手勝手なるや。君の一身は是君の所有にして君の所有にあらず。君は君の家を思はざるか。余黙然。君は君の先人の名を揚ぐるを喜ばざるか。余黙々。是等は西洋流に従ふて姑く顧みずとせん。君猶慈母の堂にあるあり。頼む所は只々君のみ。愛する所は只々君のみ。君一身を捨てゝ将に慈母を如何せんとするや。答へて曰く、請ふ言ふをやめよ。我平生務めて俗縁を絶了せんとす。君今却て已絶の絃を続がんとす。我心腸為に寸断せんとす。請ふ我をして狂たらしむるなかれ。嗚咽之を久しうす。

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明治二十二年八月十五日褥中筆を執りて記す
  こゝに消えかしこにできて物質のへりもせずまた加はりもせず
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底本:「日本の名随筆36 読」作品社
   1985(昭和60)年10月25日第1刷発行
   1991(平成3)年9月1日第10刷発行
底本の親本:「子規全集 第十二巻」改造社
   1930(昭和5)年11月初版発行
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
2001年9月12日作成
2005年1月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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