ばめて物ううる畑のめぐりのほほづきの色
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この歌は酸漿《ほおずき》を主として詠みし歌なれば一、二、三、四の句皆一気|呵成《かせい》的にものせざるべからず。しかるにこの歌の上半は趣向も混雑しかつ「せばめて」などいう曲折せる語もあり、かたがたもって「ほほづきの色」という結句を弱からしむ。
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よそありきしつつ帰ればさびしげになりてひをけのすわりをる哉《かな》
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句法のたるみたる様、西行の歌に似たり。「さびしげになりて」という続きも拙く「すわりをるかな」のたるみたるは論なし。「なりて」の語をやめて代りに「火桶《ひおけ》」の形容詞など置くべく、結句は「火桶すわりをる」のごとき句法を用うるか、または「○○すわりをる」「すわり○○をる」のごとく結びて「哉」を除くべし。
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かつふれて巌《いわお》の角に怒りたるおとなひすごき山の滝つせ
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この歌は滝の勢《いきおい》を詠みたるものにて、言葉にては「怒りたる」が主眼なり。さるを第三句に主眼を置きしゆえ結末弱くなりて振わず。「怒り落つる滝」などと結ぶが善し。
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島崎土夫主《しまざきつちおぬし》の軍人《いくさびと》の中にあるに
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妹が手にかはる甲《よろい》の袖《そで》まくら寝られぬ耳に聞くや夜嵐《よあらし》
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上三句重く下二句軽く、瓢《ひさご》を倒《さかしま》にしたるの感あり。ことに第四句力弱し。
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狛君《こまぎみ》の別墅《べっしょ》二楽亭
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広き水真砂のつらに見る庭のながめを曳《ひき》て山も連なる
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前の歌と同じ調子、同じ非難なり。[#地付き]〔『日本』明治三十二年四月二十二日〕
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酔人の水にうちいるる石つぶてかひなきわざに臂《ひじ》を張る哉
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これも上三句重く下二句軽し。曙覧の歌は多くこの頭重脚軽《とうじゅうきゃくけい》の病あり。
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宰相君《さいしょうのきみ》よりたけを賜はらせけるに
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秋の香をひろげたてつる松のかさいただきまつるもろ手ささげて
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これも前の歌と同
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