とした所で最早何の効力もない。其処で棺の中で生きかやった時に直ぐに棺から這い出られるという様な仕組みにしたいという考えも起こる。
 棺の窮屈なのは仕方が無いとした所で、其棺をどういう工合に葬むられたのが一番自分の意に適っているかと尋ねて見るに、先ず最も普通なのは土葬であるが、其土葬という事も余り感心した葬り方ではない。誰れの棺でも土の穴の中へ落し込む時には極めていやな感じがするものである。況して其棺の中に自分の死骸が這入っておると考えると、何ともいえぬ厭な感じがする。寐棺の中に自分が仰向けになっておるとして考えて見玉え、棺はゴリゴリゴリドンと下に落ちる。施主が一鍬入れたのであろう、土の塊りが一つ二つ自分の顔の上の所へ落ちて来たような音がする。其のあとはドタバタドタバタと土は自分の上に落ちて来る。またたく間に棺を埋めてしまう。そうして人夫共は埋めた上に土を高くして其上を頻りに踏み固めている。もう生きかえってもだめだ、いくら声を出しても聞こえるものではない。自分が斯んな土の下に葬むられておると思うと窮屈とも何ともいいようが無い。六尺の深さならまだしもであるが、友達が親切にも九尺でなければな
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