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目の下の小春日和や八王子[#地から2字上げ]鳴雪
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 飯繩權現に詣づ。
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ぬかづいて飯繩の宮の寒きかな[#地から2字上げ]鳴雪
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屋の棟に鳩ならび居る小春かな
御格子に切髮かくる寒さかな
木の葉やく寺の後ろや普請小屋
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 山の頂に上ればうしろは甲州の峻嶺峨々として聳え前は八百里の平原眼の力の屆かぬ迄廣がりたり。
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凩をぬけ出て山の小春かな
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 山を下りて夜道八王子に著く。
 八日朝霜にさえゆく馬の鈴に眼を覺まし花やかなる馬士唄の拍子面白く送られながら八王子の巷を立ち出で日野驛より横に百草の松蓮寺を指して行くに、
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朝霜や藁家ばかりの村一つ
冬枯やいづこ茂草の松蓮寺[#地から2字上げ]鳴雪
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 路に高幡の不動を過ぐ。
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松杉や枯野の中の不動堂
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 小山を※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]りて寺の門に至る。石壇を上れば堂宇あり。後の岡には處々に亭を設く。玉川は眼の下に流れ武藏野は雲の際に廣がる。
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玉川の一筋ひかる冬野かな[#地から2字上げ]鳴雪
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 寺を下りて玉川のほとりに出で一の宮の渡を渡る。
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鮎死で瀬のほそりけり冬の川
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 府中まで行く道すがらの句に
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古塚や冬田の中の一つ松[#地から2字上げ]鳴雪
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杉の間の隨神寒し古やしろ[#地から3字上げ]同
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鳥居にも大根干すなり村稻荷[#地から3字上げ]同
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小春日や又この背戸も爺と婆
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 府中にてひなびたる料理やにすき腹をこやし六所の宮に詣づ。饅頭に路を急ぎ國分寺に汽車を待ちて新宿に著く頃は定めなき空淋しく時雨れて田舍さして歸る馬の足音忙しく聞ゆ。
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新宿に荷馬ならぶや夕時雨
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 家に歸れば人來りて旅路の絶風光を問ふ。答へていふ風流は山にあらず水にあらず道ばたの馬糞累々たるに在り。試みに我句を聞かせんと
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