《つい》に雪を醸《かも》してちらちらと夜に入る。虚舟《きょしゅう》鴨《かも》を風呂敷に包みて持て来る。盥《たらい》に浮かせて室内に置く。
廿三日 雪は庭に残りて緑なる空に鳶《とび》一羽寒げなり。
廿四日 寒さ骨に透《とお》る。朝日薄く南窓を射、忽ちまた陰《くも》る。午後日影|朗《ほがら》かなり。蕪村忌小会。今日は鴨の機嫌|殊《こと》に好し。
廿五日 日和善し。暖かなり。雲なきはこの頃の例なり。
廿六日 ちぎれ雲、枯尾花《かれおばな》の下にあり。鴨、椽側の日向《ひなた》にあり。俳句新派の傾向を草す。夜を徹す。
廿七日 午前二時頃より雨だれの音聞ゆ。朝九時脱稿、十時寝に就く。午後二時覚む。七時頃より再び眠る。からだ労《つか》れて心地よし。少量の麻酔剤を服したるが如し。
廿八日 雨晴れ雲なし。朝、眼ざめて聞けば、鴨逃げて隣の庭に行きたりとてののしる。
廿九日
卅日
卅一日 毎夜、夜を更《ふ》かして頭痛み雲|掩《おお》ふ。窓外の天気常に晴朗。
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