の幻影早く著《いちじる》く現れ申候。且つ「ぼたん」といふ音の方が強くして、實際の牡丹の花の大きく凛としたる所に善く副《そ》ひ申候。故に客觀的に牡丹の美を現さんとすれば牡丹と詠むが善き場合多かるべく候。
新奇なる事を詠めといふと※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車、鐵道などいふ所謂文明の器械を持ち出す人あれど大に量見が間違ひ居り候。文明の器械は多く不風流なる者にて歌に入り難く候へども若しこれを詠まんとならば他に趣味ある者を配合するの外無之候。それを何の配合物も無く「レールの上に風が吹く」などゝやられては殺風景の極に候。せめてはレールの傍に菫が咲いて居るとか、又は※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車の過ぎた後で罌粟《けし》が散るとか薄がそよぐとか言ふやうに他物を配合すればいくらか見よくなるべく候。又殺風景なる者は遠望する方宜しく候。菜の花の向ふに※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車が見ゆるとか、夏草の野末を※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車が走るとかするが如きも殺風景を消す一手段かと存候。
いろ/\言ひたき儘取り集めて申上候。猶ほ他日詳かに申上ぐる機會も可有之候。以上。月日。
[#地から2字上げ]〔日本 明治31[#「31」は縦中横]・3・4〕
底本:「子規全集 第七卷 歌論 選歌」講談社
1975(昭和50)年7月18日第1刷発行
※このファイルには、以下の青空文庫のテキストを、上記底本にそって修正し、組み入れました。
「歌よみに与ふる書(新字旧仮名)」(入力:網迫、土屋隆、校正:川向直樹)
※底本では編者によって補われた文字が〈 〉で示されています。本ファイルの作成に当たっては、底本が用いた〈 〉をそのまま使用しました。
入力:川向直樹
校正:土屋隆
2010年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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