面白味も無之候。

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ささ波や比良《ひら》山風の海吹けば釣する蜑《あま》の袖かへる見ゆ
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[#地から5字上げ](読人しらず)

 実景をそのままに写し些《さ》の巧《たくみ》を弄《もてあそ》ばぬ所かへつて興多く候。

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神風や玉串の葉をとりかざし内外《うちと》の宮に君をこそ祈れ
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[#地から5字上げ](俊恵《しゅんえ》)

 神祇《じんぎ》の歌といへば千代の八千代のと定文句《きまりもんく》を並ぶるが常なるにこの歌はすつぱりと言ひはなしたる、なかなかに神の御心《みこころ》にかなふべく覚え候。句のしまりたる所、半ば客観的に叙したる所など注意すべく、神風やの五字も訳なきやうなれど極めて善く響きをり候。

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阿耨多羅三藐三菩提《あのくたらさんみゃくさんぼだい》の仏たちわが立つ杣《そま》に冥加《めいか》あらせたまへ
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[#地から5字上げ](伝教《でんぎょう》)

 いとめでたき歌にて候。長句の用ゐ方など古今|未曾有《みぞう》にて、これを詠みたる人もさすがなれど、
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