に男を離れて、その群に加わって立ち去ったというのだ。
ブラウン氏は、パッカアの見た人相を隠しておいて、どんな男だったとライオンスに訊《き》いてみた。
「当方にもいろいろわかっているが、五十ぐらいの、背の高い、痩《や》せた男だろう? 鬚《ひげ》のある――。」
女の心証をたしかめるために、わざと反対に鎌《かま》をかけた。「いいえ。三十そこそこの若い人です。身長は普通で、痩せてはいません。がっしりした身体つきでした。いいえ、鬚《ひげ》はありません。」
パッカアの証言と一致するものがある。
「外套《がいとう》は着ていなかったろうな。」
「着ていました。変に裾《すそ》の長い、黒い外套でした。」
ブラウン氏は心中に雀躍《こおど》りした。この時から、「長い黒の外套」が秘かに捜査の焦点となったのだが、この「外套《がいとう》」は、ライオンスによれば米国|訛《なま》りの口を利《き》くという。
あのドルセット街の陋屋《ろうおく》におけるケリイ別名ワッツ殺しの場合のような徹底した狂暴ぶりは、野獣か狂者でないかぎり、いかに残忍な、無神経な、血に餓えた人間であっても、人の皮を被《かぶ》っている以上とうて
前へ
次へ
全59ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング