の袱紗の上に金の兜を捧持して、急いで後に従う。一同、威儀を正して最敬礼。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (愉快そうに)太陽汗《タヤンカン》! (虎を鎮める)
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武将達の間を昂奮してのそのそ[#「のそのそ」に傍点]歩き廻っていた虎は、猫のごとく従順に、成吉思汗《ジンギスカン》の側へ帰ってぴたりと坐る。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (その虎の頭を撫でて、大笑する)ははははは、お前たちに話したかな。おれは、此虎《こいつ》に、太陽汗《タヤンカン》という名を命《つ》けたよ。太陽汗《タヤンカン》というのは、これからおれたちが攻めて行こうとしている、あの乃蛮《ナイマン》国王の名さ。虎のような乃蛮《ナイマン》王|太陽汗《タヤンカン》も、こら、見ろ、この成吉思汗《ジンギスカン》にかかっては、もうすっかり奴隷になって傍に仕えているというわけさ。はっはっは、愉快じゃねえか。なあおい!
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皆笑い崩れる。
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汪克児《オングル》 (虎へ)太陽汗《タヤンカン》さま、あなた様は私を見るとすぐ、眼の仇敵《かたき》にして跳びかかってくる。この(と自分の背中を指して)瘤を進上しやすから、それで一つ仲直りを、へへへへへへへへへ。
成吉思汗《ジンギスカン》 (伝法に)そんな物を貰っても食えねえからいらねえや、なあ太陽汗《タヤンカン》。(大きな欠伸《あくび》をする)木華里《ムカリ》がどうしたと?
忽必来《クビライ》 まだ木華里《ムカリ》が帰ってまいりませぬ。
成吉思汗《ジンギスカン》 (淋しさを隠して)心配するな。あの木華里《ムカリ》の身体に刃を当てることのできる奴が、札荅蘭《ジャダラン》の城中に一人でもいるなら、おれたちあこんな面白くもねえ戦争をしなくってもよかったんだ。
哲別《ジェベ》 (思いきって)殿、降伏の条件は拒絶したものと見えます。合爾合《カルカ》姫はお見えになりません。
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皆心苦しそうに眼を外らす。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (ふっと沈鬱に)お前たちの心尽
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