》が判らないから、では、今日のうちに鍵を持って、後からもう一度出直して来るというのだ。
「ところが、四時迄待ちましたがね、女も青年も、それっきり姿を見せませんし、臭気は愈いよ堪らなくなりますので、探査員マアクさんと、駅長のマッカアセイさんの意見で、これは警察を煩わしたほうが好いというので、御足労を願った訳です」


 ライアンとトレスの二刑事は、案内されて荷物部屋へ這入って行く。アンダスンの指さすところに、成程大きなトランクが二つ転がっている。一つは、角型の黒のパッカア式で、他は汽船用《スチイマア・スタイル》といわれる平べったいやつ、前のよりは少し小さく、灰色を帯びた緑に塗ってある。
 ライアンが、鼻をひこつかせて、
「鹿はこんな臭いはしやしねえ」
「鹿にはあらで――」
 洒落気のあるやつで、トレスが応じた。
 まだしか[#「しか」に傍点]とは判らないが、何うも益ます怪しいのである。
 立って凝視《みつ》めている二人が、この時気の付いたことは、赤みがかった茶色の液体が、大きな方のトランクの合せ目から、滲むように流れ出て、床を這って居ることだ。
 斯ういう場合の調査のために、鉄道会社には
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