医師は、前後もなく混乱して、続けた。
「サミュエルスンさんや、ルロイ夫人と喧嘩したなどという事も、私はちっとも知りませんでした。サミイとルウスと、ルロイ夫人と、この三人は、極く仲の好い友達だったんです。私のところへ来るルウスの手紙には始終『サミイとアン』と二人のことが書いてあって、何時も親しそうな筆振りでした。只、十日程前に受取った手紙に、何ですか余り感心出来ない男が、この頃盛んに二人の家に出入りして、酒を持って来たり、サミイとアンを遊びに連れ出したりしているが、自分はどうも心配でならない、何とかして二人の為めに其の男を遠ざけ度いものだが――というような事が書いてありましたが、私は別に気に留めませんでした。サミイもアンも、決して、別に酒飲みというわけではなく、ただ時どき薬用の意味でジン酒を舐める位いのもので、これは、まあ婦人でもよくやることですから――兎に角、何んな形ででも、妻とサミイとルロイ夫人と、三人を取り巻いて、真剣な問題が起っていようとは、私は夢にも思わなかったのです」
しかし、此のジュッド医師の話しを聴いていると、何となく、追いおい事件の輪廓が判然《はっきり》して来るのであ
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