一人の犠牲者は、でっぷり肥った、三十がらみの大柄な女で、このほうの死骸はそっくり完全だった。只一発で殺られたものらしい。弾丸は、左耳下から這入っている。この死体の納まっていたトランクは、貨車に逆さまに積まれて来たものらしく、頭部の弾孔から自由に血が溢れ出て、トランクの底に夥しく溜まり、途中ずっと顔全体血液に漬かって来たので、その為めに、ちょっと人相が判らない程崩れかけていた。

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 トランクの中の品物は、長さ十吋程の緑色の柄の附いたナイフと鋸と、両方折畳み式になっている物が一個、血だらけの絨毯の隅を切り取ったもの、コダックの写真、書物が数冊などで有名なオマア・カヤムのルバイヤットも出て来た。手紙のうち数通は、「ヘドウィッグ・サミュエルスン嬢」へ宛てたもので、他の数本は、「アグネス・アン・ルロイ夫人」の宛名になっている。この二人とも、住所はアリゾナ州フォニックス市北二丁目二九二九番地と封筒にあるのだ。
 其のコダックのスナップシャットと照らし合わせて、若いほうの女は、手紙の主「ヘドウィッグ・サミュエルスン」に相違ないと断定された。年取った肥ったほうは、血で顔がうるけていて
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