は、強壮滋潤の目的を達すること能わずして、かえって鎮痛療法の過激なるに失し、全体の生力を損ずることあるべし。
ゆえに今、一国の政治上よりして天下の形成を観察したらば、所望に応ぜざるものも、はなはだ多からん。農を勧めんとして農業興らず、工商を導かんとして景気ふるわず、あるいは人心|頑冥固陋《がんめいころう》に偏し、また、あるいは活溌軽躁に流るる等にて、これを見て堪え難きは、医師が患者の劇痛を見てこれを救わんとするの情に異ならざるべしといえども、これを救うの術は、ただ政治上の方略に止まるべきのみにして、教育の範囲に立入るべからず。すなわち農工商等の事を奨励せんとならば、有形の利害を示してこれを左右すべし。その効験の著しきは「モルヒネ」の劇痛におけるが如きものあらんといえども、今年今月の農工商をふるわしめんとて、にわかにその教育の組織を左右すればとて、何の効を奏すべきや。またあるいは天下の人心が頑冥固陋なり活溌軽躁なりとて、その頑冥軽躁の今日において、今の政治上に妨あるものを改良し、正に今日の所望に応ぜしめんがためにとて、これを政治の方略に訴るは可なり。
たとえば日本士族の帯刀はおのずか
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