時自分で自分の腿を刺したのです。これですっかりお分りですか?」
「驚いた! 実に驚きました。まるで傍で見ていたようです!」
「正直に申すと、私の最後の断定は極めて大胆でした。ストレーカのような狡猾な男が、この難しい腱の手術をするに、少しも練習なしにいきなりやるはずはないと気がついたのです。ではどうしたら練習が出来るでしょう? その時、私はふと羊のことを思い、訊ねてみると、自分でも驚くほど私の推定が当ってるのを知りました」
「これで何もかも完全に判明しました」
「ロンドンへ帰ってから帽飾店へ行ってみますと、ストレーカはダービシャといって、特に高価な服の好きな、見栄坊の妻を持ったその店の上客だということが分りました。この女がストレーカを借財で首のまわらぬまでにし、遂にこの悲惨な結果に終った陰謀を企ませたことは申すまでもありません」
「すっかり分りましたが、一つだけまだお話し下さらないことがあります。馬はいったいどこにいたのですか?」
「馬ですか、馬は逸走してしまって、あの附近のある人の保護を受けていたのです。その辺のことは大目に見ておかなければなりますまい。ああ、ここはどうやらクラパムの乗換駅ですね? ヴィクトリア・ステーションまではもう十分とかかりません。大佐、私のところへお寄り下すって、葉巻でもおやりになりませんか? この他に何かお訊ねになりたいことでもありましたら、何んなりと喜んでお答えいたします」
底本:「世界探偵小説全集 第三卷 シヤーロツク・ホームズの記憶」平凡社
1930年(昭和5)年2月5日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の書き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 飽くまでも→あくまでも 彼方→あっち 或は→あるいは 如何→いか 何時→いつ 一旦→いったん 恐らく→おそらく 彼→か 且つ→かつ 可成り→かなり かも知れ→かもしれ 位→くらい・ぐらい 毎→ごと 悉く→ことごとく 而・然→しか 暫く→しばらく 即ち→すなわち 是非→ぜひ 只→ただ 但し→ただし 忽ち→たちまち 度→たび 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと て頂・戴→ていただ て居→てお て見→てみ て貰→てもら 何→ど 何処→どこ 何方→どっち 兎に角→とにかく 止度なく→とめどなく 飛
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