のままがいい。それについては後で手紙を出そう。もう狡《ず》るいことをするじゃないよ。さもないと――」
「大丈夫です! どうぞ私を信じて下さい」
「当日はあくまでもお前さんのもののように扱ってくれないと困る」
「どうぞ私にお任せ下さい」
「よろしい、安心していよう。では明日手紙を上げるから」
ホームズはブラウンが震える手をのべて握手を求めたのを構わずに、くるりと向きを代えてそのまま私と一緒にキングス・パイランドの方へ帰って行った。
「サイラス・ブラウンのようなあんな傲慢で臆病で狡猾な三拍子そろった奴を見たことがない」
ホームズは歩きながらいった。
「じゃ、あの馬を持っていたんだね?」
「初めはつべこべと誤魔化そうとしたから、あの晩、いや朝のあいつの行動を正確に話してやったら、図星を指されたと見えて、とうとう兜を脱いだよ。僕が見ていたとでも思い込んだらしく。君はあの足跡が妙に爪先が角ばっていたのも、ブラウンの穿いていた靴がちょうどそれに適合する形だったのも、無論気がついたろう。そして部下の使用人にはこんなことが出来るものじゃないことも――だから、僕は毎朝あいつが一番に起きる習慣であること、あの朝も早く起きてみると、荒地によその馬がうろうろしているので、出て行ってみたところ驚いたことには、それが白銀号だった――白銀というのは額が真白なところから出た名なんだが、自分が大金を賭けてる馬の唯一の強敵が手に入ったんでびっくりしただろうと、そのことについて委しく話してやった。最初は、キングス・パイランドへつれて行こうとしたが、急に魔がさして、競馬のすむまでかくしておいたらという考えを起し、そっとケープルトンへつれ戻ってかくしておいただろうといってやったもんだから、あいつもとうとう降参して、どうかして自分が罰せられないですむ方法はないかと考えるまでになったんだ」
「だって、あの厩舎はグレゴリ警部が調べたんだろう?」
「馬の扱いもあいつぐらいになると、どうにでもぺてんの利くもんだよ」
「だって君は、ブラウンに馬を預けておいて心配はないのかい? あの馬に傷をつければ、どの点から見てもブラウンの利益になるんだのに」
「安心したまえ。ブラウンは掌中の玉のように馬を大切にするから。少しでも罪を軽くしてもらうには馬を安全にしておくのが、唯一の方法だと、ちゃんと心得ているんだ」
「だが、ロス大
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