らしむるにあり。安身は安心の術なり。ゆえに今、帝室の保護をもって、私学校を維持せしめてかねてまた学者を優待するの先例を示されたらば、世間にも次第に学問を貴ぶの風を成して、自然に学者安身の地位も生ずべきがゆえに、専業の工たり農商たり、また政治家たる者の外は、学問社会をもって畢生《ひっせい》安心の地と覚悟して、政壇の波瀾に動揺することなきを得べし。我が輩かつていえることあり、方今政談の喋々《ちょうちょう》をただちに制止せんとするは、些少《さしょう》の水をもって火に灌《そそ》ぐが如し、大火消防の法は、水を灌ぐよりも、その燃焼の材料を除くに若《し》かずと。けだし学者のために安身の地をつくりてその政談に走るをとどむるは、また燃料を除くの一法なり。



底本:「福沢諭吉教育論集」岩波文庫、岩波書店
   1991(平成3)年3月18日第1刷発行
底本の親本:「福沢諭吉選集 第3巻」岩波書店
   1980(昭和55)年12月18日第1刷発行
初出:「時事新報」時事新報社
   1883(明治16)年1月20日〜2月5日発行
入力:田中哲郎
校正:noriko saito
2007年4月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全22ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング