やしてなすことなれば、たとい酒色に耽《ふけ》り放蕩を尽くすも自由自在なるべきに似たれども、けっして然《しか》らず、一人の放蕩は諸人の手本となり、ついに世間の風俗を乱りて人の教えに妨げをなすがゆえに、その費やすところの金銀はその人のものたりとも、その罪許すべからず。
 また自由独立のことは人の一身にあるのみならず、一国の上にもあることなり。わが日本はアジヤ州の東に離れたる一個の島国にて、古来外国と交わりを結ばず、ひとり自国の産物のみを衣食して不足と思いしこともなかりしが、嘉永年中アメリカ人渡来せしより外国|交易《こうえき》のこと始まり、今日の有様に及びしことにて、開港の後もいろいろと議論多く、鎖国|攘夷《じょうい》などとやかましく言いし者もありしかども、その見るところはなはだ狭く、諺《ことわざ》に言う「井の底の蛙《かわず》」にて、その議論とるに足らず。日本とても西洋諸国とても同じ天地の間にありて、同じ日輪に照らされ、同じ月を眺め、海をともにし、空気をともにし、情合い相同じき人民なれば、ここに余るものは彼に渡し、彼に余るものは我に取り、互いに相教え互いに相学び、恥ずることもなく誇ることもな
前へ 次へ
全187ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング