つ許すべし。その笑うべきの極度に至りては他人の物を誤り認め、隣りの細君が御召縮緬《おめしちりめん》に純金の簪《かんざし》をと聞きて大いに心を悩まし、急に我もと注文して後によくよく吟味すれば、豈《あに》計らんや、隣家の品は綿縮緬に鍍金《めっき》なりしとぞ。かくのごときは、すなわちわが本心を支配するものは自分の物にあらずまた他人の物にもあらず、煙のごとき夢中の妄想に制せられて、一身一家の世帯は妄想の往来に任ずるものと言うべし。精神独立の有様とは多少の距離あるべし。その距離の遠近は銘々にて測量すべきものなり。
かかる夢中の世渡りに心を労し、身を役《えき》し、一年千円の歳入も、一月百円の月給も、遣《つか》い果たしてその跡を見ず、不幸にして家産歳入の路《みち》を失うか、または月給の縁に離るることあれば、気抜けのごとく、間抜けのごとく、家に残るものは無用の雑物《ぞうもつ》、身に残るものは奢移《しゃし》の習慣のみ。憐れと言うもなおおろかならずや。産を立つるは一身の独立を求むるの基《もとい》なりとて心身を労しながら、その家産を処置するの際に、かえって家産のために制せられて独立の精神を失い尽くすとは、
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