るものなし。疑猜《ぎさい》、嫉妬、恐怖、卑怯の類は、みな怨望より生ずるものにて、その内形に見《あら》わるるところは、私語、密話、内談、秘計、その外形に破裂するところは、徒党、暗殺、一揆、内乱、秋毫《しゅうごう》も国に益すことなくして、禍《わざわい》の全国に波及するに至りては主客ともに免るることを得ず。いわゆる公利の費をもって私を逞《たくま》しゅうするものと言うべし」
怨望の人間交際に害あることかくのごとし。今その原因を尋ぬるに、ただ窮の一事にあり。ただしその窮とは困窮、貧窮等の窮にあらず、人の言路を塞《ふさ》ぎ、人の業作《ぎょうさ》を妨ぐる等のごとく、人類天然の働きを窮せしむることなり。貧窮、困窮をもって怨望の源とせば、天下の貧民は悉皆《しっかい》不平を訴え、富貴はあたかも怨みの府にして、人間の交際は一日も保つべからざるはずなれども、事実においてけっして然らず、いかに貧賤《ひんせん》なる者にても、その貧にして賤《いや》しき所以《ゆえん》の原因を知り、その原因の己が身より生じたることを了解すれば、けっしてみだりに他人を怨望するものにあらず。その証拠はことさらに掲示するに及ばず、今日世界
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