たす》け、一片の私心なく半点の我欲なく、清きこと水のごとく、直《なお》きこと矢のごとく、己が心を推して人に及ぼし、民を撫《ぶ》するに情愛を主とし、饑饉《ききん》には米を給し、火事には銭を与え、扶助救育して衣食住の安楽を得せしめ、上《かみ》の徳化は南風の薫ずるがごとく、民のこれに従うは草の靡《なび》くがごとく、その柔らかなるは綿のごとく、その無心なるは木石のごとく、上下合体ともに太平を謡《うた》わんとするの目論見《もくろみ》ならん。実に極楽の有様を模写したるがごとし。
されどもよく事実を考うれば、政府と人民とはもと骨肉の縁あるにあらず、実に他人の付合いなり。他人と他人との付合いには情実を用ゆべからず、必ず規則約束なるものを作り、互いにこれを守りて厘毛の差を争い、双方ともにかえって円《まる》く治まるものにて、これすなわち国法の起こりし所以なり。かつ右のごとく、聖明の君と賢良の士と柔順なる民とその注文はあれども、いずれの学校に入れば、かく無疵《むきず》なる聖賢を造り出だすべきや、なんらの教育を施せばかく結構なる民を得べきや、唐人も周の世以来しきりにここに心配せしことならんが、今日まで一度も
前へ
次へ
全187ページ中112ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング