ることが出来よう。誰にでも使へる様な平凡な言葉が平凡に組合されてゐるに過ぎないこの一首の歌が、反つて強く人の心に訴へる所のあるのは如何したことであらう。晶子歌の持つ不思議の一つである。この時の歌をも一つ。 我が旅の寂しきことも古へも我は云はねど踏む雪の泣く

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遠方《をちかた》に星の流れし道と見し川の水際《みぎは》に出でにけるかな
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 恋人達の試みる夏の夕の郊外散策の歌である。とうとう川に出ましたね、さつき星の流れた辺ですよといふのであらうが、尤も之はむかしの話で今日の様にどこへ行つても人のごみごみしてゐる時代にはこんなのどかな歌は出来ないであらう。

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大海のほとりにあれば夜の寄らん趣ならず闇襲ひくる
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 十二年の早春興津の水口屋に宿つてゐた時の作。家の裏は直ぐ大きな駿河湾で、大海のほとりにあるといふ感じのする宿である。日が暮れて夜が静かに忍びよるのではなく、この海辺に夜の来る感じは、いきなり暗闇《くらやみ》が襲ひかかるといふ方が当つてゐる。さうしてこの感じによつて逆に読者は自分も大海の辺
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