若い頃のやうなけばけばしさがなく、ゆつたり落付いてゐるのはやはり作者の心の落付きを反映してゐるのであらう。

[#ここから2字下げ]
日昇れど何の響きもなき如し夏の終りの向日葵の花
[#ここで字下げ終わり]

 人の漸く老いて好刺戟あれども何の反応も示さなくなつた様子を象徴するものであらう。これも五十頃の作で体験に本づくこと勿論である。

[#ここから2字下げ]
君が鳥わが知らぬ鳥二つ居て囀りし夢また見ずもがな
[#ここで字下げ終わり]

 私の嫉妬はずゐ分激しかつたがこの頃はもう争ひの種もなくなり、至極平静な生活を続けてゐる。君の鳥が他の女の鳥と囀り交す様な夢でさへもう見たくはない。

[#ここから2字下げ]
知り易き神の心よ恋てふもそれより深きものと思はず
[#ここで字下げ終わり]

 神は愛なり、この位よく分ることは私にはない。なぜなら私の心は愛で一杯になつてゐて、何ものをも愛し得るからである。恋の如きもこの愛より深いものとは私は思はない。こんなことの云へるのも一面年老いて最早当時の情熱など思ひ出せないからでもあらう。

[#ここから2字下げ]
ありと聞く五つの戒の一つのみ破りし
前へ 次へ
全349ページ中276ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング