近代人の複雑な感覚に働きかけることは出来ない。そこで日本の抒情詩に複式近代性を与へようと意識的に挺身したのが晶子さんであつた。さうして幾首かの傑作、幾十首かの秀作を残した。中に意味の取りにくい晦渋な難物の混じつてゐるのもその為である。惜しいことに之を次ぐものがない。これからの若い人に期待される。

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美くしき秋の木の葉の心地して島の浮べる伊予の海かな
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 私も幾囘か美しい島の浮んでゐるあの辺を船路で通つたことがあるが、これ程の歌は遂に作れなかつた。これはしかし陸地から見た感じで、洵にたわいない様なものだが、精選された快感が風の様に吹いてゐる。

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いと熱き火の迦具土の言葉とも知らずほのかに心染めてき
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 今思へば、母の胎をさへ焼いたといふ赤熱した雷火のやうな言葉だつたのを、さうとも知らず、やさしいことを言ふものだと思つてなつかしい心持さへ起したが、未熟な少女心とは云へ見当違ひもひどかつた、と生成した心は思ふのである。

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伊予路より秋の夕暮踏みに来ぬ阿波の吉野の川上の橋
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