ばしたものであるが、また同じ作者のものが一生を通じて生活の基調を為してゐて少くも変ることがなかつた。
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唐傘《からかさ》のお壼になりし山風の話も甲斐に聞けばおどろし
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前記依水荘に出養生に行つて居られた時の作の一つ。夏の山の雨は往々にしてすさまじい勢ひを見せるものだ。この間にもさういふ雨が降つたと思はれ その昔島田の橋に君の会ひ我の会ひたる山の雨降る といふ歌があるが、その風雨の中を帰つて来た人の話を聴いて、こわいことだと山国の甲斐にあることを感じたのである。
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わが春の笑みを讃ぜよ麗人の泣くを見ずやと暇《ひま》なきものか
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これは第三集「毒草」にある歌で、その調子は既に生長してゐて流麗まことに鶯の囀ずる如きものがある。さて歌の意味であるが一寸分りにくい。当時作者の好んで歌つた京の舞姫の場合ではないかと思ふ。さうだとすれば朝は「私の笑顔をほめよ」といひ夕は「こんな美人が泣いてゐるのに」と戯れつつたわいない一日を過ごすといふ様に解せられるが如何いふものだらうか。
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