明りかな などがある。
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皷打ち春の女の装ひと一人して負ふ百斤の帯
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日本の女の帯の美々しさを、その最も典型的な京の芸子の皷を打つ春著姿にかりて詩化したもの。[#「。」は底本では「、」]「百斤」とは男子一人の重さで、又その荷なひうる最大の重さでもある、即ち人を驚かずに足る表現法がここにも用ゐられて効果を挙げてゐる。百斤を用ひた他の例に 百斤の桜の花の溜りたる伊豆のホテルの車寄せかな といふのがある。熱海ホテルでの歌である。
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村上の千草《ちぐさ》の台の秋風を君あらしめて聞くよしもがな
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十二年の秋新鹿沢に遊んだ時の作。村上の千草の台とはその名が余りに美しいので、或は作者の命名かも知れない。高原の秋風のすばらしさを故人をかりて述べたもので、この歌には追懐の淋しさなどは少しも見られない。
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仁和寺の築地のもとの青蓬生ふやと君の問ひ給ふかな
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この歌も京情調を歌ふクラシツクの一つ。天才の口から流れ出た日本語の音楽である。
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涼しくも黒と白とに装へる大船のある朝ぼらけかな
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十二年の夏伊豆の下田での作。夏の朝早くまた日の昇らぬ港の涼しい爽やかな光景を折から碇泊してゐた白と黒との段々染の様な大船を中心にして描出したものである。涼しくもとあるので夏である事が分るやうになつてゐる。同じ時の作に 安政の松陰も乗せ船の笛出づとて鳴らばめでたかるべし ありし日の蓮台寺まで帰る身となりて下田を行くよしもがな などがある。
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秋まつり鬱金《うこん》の帯し螺《ら》を鳴らし信田の森を練るは誰が子ぞ
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一分の隙もない渾然として玉の様な歌であるが、なほ古い御手本がなくはない。 白銀の目貫の太刀を下げ佩きて奈良の都を練るは誰が子ぞ といふ歌がそれであるが、換骨脱胎もこれ位に出来れば一人前である。
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東海を前にしたりと山は知り未ださとらず藤木川行く
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相州湯ヶ原滞在中の作。折からの五月雨で藤木川の水嵩がまし水勢も強い。それを見てゐると自分の行く先を知るものの様には思へない。然しうしろの山々は目が
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