何物もなく取り去るべき一字もない。
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花咲きぬむかしはて無き水色の世界に我とありし白菊
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これほど新らしい、又縹渺として捕へ難い趣きもあり、又一種の哲理のやうなものをさへ含んでゐる歌は晶子さんにさへ一寸珍しい。日本のやうな局限された天地に置いておくべき詩ではない。といつて又世界の諸民族中この歌の分るのは或はフランス人位のものかも知れないといふ様な気もする。水色の世界とは即ちロゴスであり混沌であり、万法帰源の当体である。その中で晶子さんと白菊とがものの芽として共存してゐた。それが時至つて一つは詩人として日本に生れ、一は白菊として今日その花を著けここに再び相会したのである。
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石山の観月台に立ちなまし夜の明けんまで弥勒の世まで
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弥勒の世とは五十六億七千万年後の世であるから永遠といふ言葉のよき代用である。西洋風にいつたら聖蘇再誕の日までとなる。誰でも、又いくらよい月でもまさか夜明しも出来ない。その内厭きても来るし眠くもなつて観月台から引き上げたであらう。しかし唯引き上げたのでは面白くない、何とか捨ぜりふを残したい。この歌は即ちその捨ぜりふである。それがみろくの世などいふ結構な説話があるのでものになつたわけだ。
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もの憎む心ひろがる傍にあれども君は拘はりも無し
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その起りは何にあつたのか、初めは一寸したことからであらうが、心が変調を来したと見え次第に何もかも憎らしくなつて来た。それなのにそれに気がつかずにのんきな男心はすましてゐる。よくそんなことで恋が出来るものだ。先づこんな所であらうか。これはしかし恋人同志の間だけではなく、一般の対人現象として常に私共の体験する所である。
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山早く月を隠せば大空へ光を放つ琵琶の湖
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自然現象を物理的に詠じたものには違ひない。月が西山にはいつてしまへば観月台上は蔭となり、見るものは東方琵琶湖面から反射する月光のみとなる。しかし大空へ光を放つとは大した云ひ方で、その為にこの物理現象も詩化されるわけである。
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紫の魚あざやかに鰭振りて海より来しと君を思ひぬ
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若い女が紫好みの春著を著て新
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