宛違つて来てはゐるが最後迄涸渇することを知らなかつた。
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衰へてだに悲しけれ死ぬことを容易《たやす》きものに何思ひけん
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作者は一面激しい感情の持主であつたから折にふれて幾度か死を決したこともあつたらう。それを初老といはれる五十近くになつて顧みたものであらう。然るにさういふ口の下から、相当の事情があつたにせよその後幾年もなくまた死を決せられたやうで、その時はこんな歌を詠んで居る。 わが在りし一日片時子の為めに宜しかりしを疑はぬのみ 又 汝《な》が母は生きて持ちつる心ほど暗き所にありと思ふな しかし結局思ひ過ぎであつた。しかしそれを最後としてあとは一二囘の波瀾はあつたが比較的静かな境遇に入られたやうである。
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自らは半人半馬降るものは珊瑚の雨と碧瑠璃の雨
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フアウスト第二部に人首馬身のヒロンがあるが、この半人半馬は女性で詩歌芸術の世界、その世界には紅い珊瑚の雨と碧い瑠璃の雨とが入り混つて降つてゐる、その中を縦横無尽に駈け廻るのである。こんなロマンチツクな色彩濃厚な幻想でありながら少しも若い頃のやうなけばけばしさがなく、ゆつたり落付いてゐるのはやはり作者の心の落付きを反映してゐるのであらう。
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日昇れど何の響きもなき如し夏の終りの向日葵の花
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人の漸く老いて好刺戟あれども何の反応も示さなくなつた様子を象徴するものであらう。これも五十頃の作で体験に本づくこと勿論である。
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君が鳥わが知らぬ鳥二つ居て囀りし夢また見ずもがな
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私の嫉妬はずゐ分激しかつたがこの頃はもう争ひの種もなくなり、至極平静な生活を続けてゐる。君の鳥が他の女の鳥と囀り交す様な夢でさへもう見たくはない。
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知り易き神の心よ恋てふもそれより深きものと思はず
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神は愛なり、この位よく分ることは私にはない。なぜなら私の心は愛で一杯になつてゐて、何ものをも愛し得るからである。恋の如きもこの愛より深いものとは私は思はない。こんなことの云へるのも一面年老いて最早当時の情熱など思ひ出せないからでもあらう。
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ありと聞く五つの戒の一つのみ破りし
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