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 物乞ひ女の哀れな姿をふと心内に認めて驚いた形である。しかしよくよく見ればこの乞食女は誰の心中にも居るのである。

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公主嶺豚舎に運ぶ水桶の柳絮に追はれ雲雀に突かる
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 公主嶺にはもと農事試験所があり、種畜場を兼ねてゐたので支那豚を改良する目的の立派な豚舎があつた筈だ。その豚舎へ苦力が水桶を運ぶ。その周囲を柳絮が舞ひ、雲雀が縫ふ様に飛んでゆく。満洲らしいのびのびした光景である。日本ではそんな低い所を雲雀は飛ばない。日本なら燕であるべき所が満洲では雲雀なのであるが、雲雀に突かれるとは面白い。

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わが横に甚《いた》く頽《くずほ》れ歎く者ありと蟋蟀とりなして鳴く
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 蟋蟀の鳴くのを聞いてゐると、私の横に人がひどく泣いてゐるが、可哀さうなわけがあるのだからと取りなし顔にいつてゐる様に聞こえる。この頃即ち大正の初めの頃の歌はその後に比しては勿論、それ以前に比しても少しく劣つてゐるやうに思へるが、この歌などは立派なもので、他の時期の秀歌に比し少しも遜色はない。

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重なれる山は浅葱の繻子の襞渾河は夏の羅の襞
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 奉天から撫順へ曲る渾河添ひの景色である。折から初夏の山の色水の色の淡い取り合せが色彩の音楽のやうに美しかつたのであらう、その通り歌にあらはれてゐる。

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少女子は夏の夜明の蔓草の蔓の勢ひ持たざるもなし
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 たとへば朝顔の蔓のやうにか細く柔いが、その物にしつかりからみついて夏の夜明にずんずん延びる勢ひは即ち少女の勢ひで誰もこれを押へることは出来ない。

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山桑を優曇華の実と名づけたり先生いかに寂しかりけん
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 尾崎咢堂先生の軽井沢の莫哀山荘は夫妻が吟行の途次必ず立ち寄る処で、私も一度御伴をして行つて咢堂先生も加はつて席上の歌を作つたことがあつた。この頃既に先生は何の党にも属せず清教徒として政治的に孤立し大半ここに閑居して居られた形であつた。炭窯まであつた広い山荘を歩き廻つた時、山桑が紫の実をつけてゐるのを先生が戯れにうどんげの実といふ名をつけて珍重する由など話されたのであらう、それを直ちに主人の現在の心境を写す
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