の魂は哭いた。ただ、あざやかに僕を横切ってかすめて行ったものの姿におどろかされて。(僕は子供のときから頭のなかを掠めて行った美しい破片のために、じりじりと憧れつづけていたのだ。じりじりと絶えず憧れつづけて絃は張裂けそうだったが)……そして、お前があのように、たった今みたばかりの夢を僕に語るとき、その夢はほんの他愛ないものにすぎなくても、お前のなかには「美しい破片」のために苛まれている微かな身悶えがありはしなかったか。他愛ない夢の無邪気に象徴しているものをお前は僕に告げたが、お前が語ったどんな微かな夢にもお前の顔附があって、お前の過去と未来がしっかり抱きあったまま消えて行ったのではなかったか。
 僕はあの家でみた一番綺麗な夢を思い出す。すべての嘆きと憧れが青い粒子となって溶けあっている無限の青みのなかを僕は青い礫のような速さで押流されていた。世界がそのように、いきなり僕にとって変っているということは、睡っている僕に一すじの感動を呼びおこしていたが、醒めぎわが静かに近づいて来るに随って、僕はそこが嘗てお前と一緒に旅行をしたときの山のなかの景色になって来るのに気づいていた。……お前は重苦しい
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