れを想つただけでも耐らなく頭が火照る。体全体が熱と光のくるめきに、つん裂かれさうになつた。いけない、いけない、と彼は努めて平静を粧ひ、雑沓の中を進んだ。が、爆発しさうなものは爪さきまで走り廻つた。
 省線駅入口に向ふ路が露店を並べて狭まつてゐた。彼はライター修繕屋のテーブルに眼をとめ、ピカピカ光る金属を視つめた。(今、何ごとも発生してはゐない。すべてはもとのままではないか。)だが、衝撃は刻々と何処かで拡大されてゆくやうにおもへた。もう一度、遭難地点を吟味するやうに、さきほどから自分の歩いてゐる場所を振りかへつてみた。銀行から電車通を抜けてK駅にむかふ路の入口まで来たとき、恰度その時、突然あの言葉が閃いたのだつた。
 その言葉の発想とともに無数の連想の破片が脳裏に散乱した。最初、音楽爆弾の言葉が浮ぶと同時に閃いた考は、すべて有機体は音楽に依つて影響を蒙るといふ仮説だつた。それなら、無機物も音楽の特殊装置によつて自在に変化できる。その装置による微妙な音楽は原子核をも意のままに操作配列さす。そして、この方法によつて発生する魔力は遂には全く人間の想像を絶したものになる。それは……、そして……、
前へ 次へ
全20ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング