ンプクシタ電車ノワキノ
馬ノ胴ナンカノ フクラミカタハ
ブスブストケムル電線ノニホヒ
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 倒壊の跡のはてしなくつづく路を馬車は進んで行つた。郊外に出ても崩れてゐる家屋が並んでゐたが、草津をすぎると漸くあたりも青々として災禍の色から解放されてゐた。そして青田の上をすいすいと蜻蛉の群が飛んでゆくのが目に沁みた。それから八幡村までの長い単調な道があつた。八幡村へ着いたのは、日もとつぷり暮れた頃であつた。そして翌日から、その土地での、悲惨な生活が始まつた。負傷者の恢復もはかどらなかつたが、元気だつたものも、食糧不足からだんだん衰弱して行つた。火傷した女中の腕はひどく化膿し、蠅が群れて、とうとう蛆が湧くやうになつた。蛆はいくら消毒しても、後から後から湧いた。そして、彼女は一ヶ月あまりの後、死んで行つた。

 この村へ移つて四五日目に、行衛不明であつた中学生の甥が帰つて来た。彼は、あの朝、建もの疎開のため学校へ行つたが恰度、教室にいた時光を見た。瞬間、机の下に身を伏せ、次いで天井が墜ちて埋れたが、隙間を見つけて這ひ出した。這ひ出して逃げのびた生徒は四五名にすぎず、他は全部
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