書だつたやうな気がします。
 岸を離れて行く船の甲板から眺めると、陸地は次第に点のやうになつて行きます。僕の文学も、僕の眼には点となり、やがて消えるでせう。
 今迄発表した作品は一まとめにして折カバンの中に入れておきました。もしも万一、僕の選集でも出ることがあれば、山本健吉と二人で編纂して下さい。そして著書の印税は、原時彦に相読[#「読」はママ]させて下さい。
 折カバンと黒いトランク(内味とも)をかたみに受取つて下さい。
 甥(三四郎)が中野打越一三 平田方に居ます。
 では御元気で……。



 丸岡明氏宛

 御世話になりりっぱなし[#「なりりっぱなし」はママ]でお別れするのを心苦しく思ひます 何卒お許し下さい
 借りが左の通りありますから 主婦之友の印税が入つたら それで処理して下さい
  参千円    庄司総一君
  弐千円    能楽書林
 ガリバーの本が出たら 別記の人々に送って頂きたいので お願ひ致します
 それから文芸に行つてゐた僕の小説 そのうち読んでみて下さい 鈴木君からその間の事情を承はりましたが あれは読んで下されば 諒解して頂けることと信じてゐます
 御健筆
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