A不正直なものに、騙《だま》されるのは、これはどうも防ぎようがない、だから、詐欺が一番いけないのだ、と、リリパットの人たちは考えています。それから、忘恩も死刑にされます。恩に仇をもってむくいるというようなことをする人は、生きる資格がないとされています。
人を官職にえらぶ場合、この国では、才能より徳義の方を重く見ます。政治というものは、誰にも必要なのだから、普通の才能があればいゝとされています。けれども、徳義のない人は、いくら才能があっても、危険だから、そんな人に政治はまかせられないというのです。
私はこのリリパット国に九ヵ月と十三日間滞在していたのですが、こゝで、ひとつ私がその間どんなふうにして暮したか、それをお話ししてみましょう。
私は生れつき、手先は器用でしたが、どうしてもテーブルが一つ欲しかったので、帝室庭園の一番大きな木を何本か切って、手頃なテーブルと椅子をこしらえました。
それから、二百人の女裁縫師が、私のために、シャツとシーツとテーブル掛を作ってくれました。それにはできるだけ丈夫な布を使ってくれたのですが、それでも、一番厚いのが紗よりまだ薄いのです。だから、何枚も重
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