ニグラつかせるだけで、大したことはありません。
どの船にもみんな鈎をかけてしまうと、私は綱の結び目をつかんで、ぐいと引っ張りました。ところが、どうしたことか、船は一隻も動きません。見ると、船はみんな錨で、しっかりとめてあるのです。そこで、また、やっかいな、骨の折れる仕事がはじまりました。鈎のかゝったまゝの綱を、一たん手から放し、それから、小刀を取り出して、錨の綱をズン/\切ってゆきました。このときも、顔や手に二百本以上の矢が飛んで来ました。さて、私は鈎をかけた綱を手に取り上げると、今度はすぐ簡単に動き出しました。こうして、私は敵の軍艦五十隻を引っ張って帰りました。
ブレフスキュの人たちは、私が何をしようとしているのか、見当がつかなかったので、はじめのうちは、たゞ呆れているようでした。私が錨の綱を切るのを見て、船を流してしまうのか、それとも、互に衝突させるのかしら、と思っていましたが、いよ/\全艦隊が私の綱に引っ張られて、うまく動きだしたのに気づくと、にわかに泣き叫びだしました。彼等の嘆き悲しむ有様といったら、まあ、なんといっていゝのかわからないほどでした。
さて、私は一休みするた
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