sくことができました。乗り捨てた方の踏台は、棒の先につけた鈎で、釣り寄せて、拾い上げるのです。こういうことを繰り返して、私は一番奥の内庭まで来ました。そこで、私は横向きに寝ころんで、二三階の窓に、顔をあてゝみました。窓はわざと開け放しにされていましたが、その室内の立派なこと、どの部屋も、目がさめるばかりの美しさです。
皇后も皇子たちも、従者たちと一しょに、それ/″\、部屋に坐っておられます。皇后は、私を御覧になると、やさしく笑顔を向けられ、わざ/\窓から、手をお出しになります。私はその手をうや/\しくいたゞいてキスしました。
私が自由な身になってから、二週間ぐらいたった頃のことでした。ある朝、宮内大臣のレルドレザルがひょっこり、一人の従者をつれて、私を訪ねて来ました。乗って来た馬車は、遠くへ待たしておき、彼は、
「一時間ばかりお話がしたいのです。」
と私に面会を申し込みました。
私がしきりに皇帝へ嘆願書を出していた頃、彼にはいろ/\世話になったのです。で、私はすぐ彼の申込みを承知しました。
「なんなら私は横になりましょうか。そうすれば、あなたの口は、この耳許にとゞいて、お互に話
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