獅ニいうことです。
 頭には、宝石をちりばめた軽い黄金の兜《かぶと》をいたゞき、頂きに羽根飾りがついていますが、着物は大へん質素でした。手には、長さ三インチぐらいの剣を握っておられます。その柄《え》と鞘《さや》は黄金で作られ、ダイヤモンドがちりばめてあります。
 皇帝の声はキイ/\声ですが、よく開きとれます。女官たちは、みんな綺麗な服を着ています。だから、みんなが並んで立っているところは、まるで、金糸銀糸の刺繍の衣を地面にひろげたようでした。
 皇帝は何度も私に話しかけられましたが、残念ながら、どうもお互に、言葉が通じません。二時間ばかりして、皇帝をはじめ一同は帰って行きました。あとに残された私には、ちゃんと番人がついて、見張りしてくれます。つまり、これは私を見に押しかけて来るやじ[#「やじ」に傍点]馬のいたずらを防ぐためです。
 やじ[#「やじ」に傍点]馬どもは、勝手に私の近くまで押しよせ、中には、私に矢を射ようとするものまでいました。一度など、その矢が、私の左の眼にあたるところでした。が、番人はさっそく、そのやじ[#「やじ」に傍点]馬の中の、頭らしい六人の男をつかまえて、私に引き渡
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