A私は腹をかゝえて笑わないではいられなくなりました。というのは、彼の目が、二つの窓から射し込む満月のように見えたからです。みんなは、私のおかしがるわけがわかると、一しょになって笑いだしました。すると、老人はムッとして顔色を変えました。
この老人は、けちんぼう[#「けちんぼう」に傍点]だとの評判でしたが、やはりそうでした。そのため、私はとんだ目に会うことになりました。こゝから二十二マイルばかり、馬でなら、半時間かゝる、隣りの町の市日に、私をつれて行って、ひとつ見世物にするがいゝ、と、彼は主人にすゝめたのです。
主人とその男は、とき/″\、私の方を指さして、長い間、ひそ/\とさゝやき合っていました。私はそれを見て、これは何か悪いことを相談し合ってるな、と思いました。じっと気をつけていると、とき/″\、もれて聞える二人の言葉は、なんだか私にもわかるような気がしました。しかし、ほんとのことは、次の朝、グラムダルクリッチが私に話してくれたので、それで、すっかりわかったのでした。
私が見世物にされるということを、グラムダルクリッチは、母親から聞き出したのでした。彼女は私と別れることを、大へん悲しがり、私を胸に抱きしめて泣きだしました。
「見物人たちは、どんな乱暴なことをするかわかりません。あなたを押しつぶしてしまうかもしれないし、もしかすると、手を取って、あなたの手足を一本ぐらい折ってしまうかもわかりません。」
と、彼女は私のことを心配してくれるのでした。
「あなたは遠慮ぶかい、おとなしい、そして、気位の高い人でしょう。それなのに、見世物なんかにされて、お金のために、卑しい連中の前でなぐさみにされるなんて、ほんとうに口惜しいことでしょう。お父さんもお母さんも、私にグリルドリッグをあげると言って約束したくせに、今になって、こんなことをするのです。去年も子羊をあげると言っておきながら、その羊が肥えてくると、すぐ肉屋に売り払ってしまった、あれと同じようなことをしようとしてるのです。」
と、彼女は私のことを嘆くのでした。
しかし、私は、この乳母さんほどには、心配していなかったのです。いつかは、きっと自由の身になってみせると、私は強い希望を持っていました。それに、私が怪物として、あちこちで見世物にされても、私はこの国には知人ひとりあるわけではなし、私がイギリスに帰ってからも、何も、このことは非難されるはずがないと思います。イギリスの国王でも、今の私と同じようなことになったら、やはり、これくらいの苦労はするだろう、と私は思いました。
主人は友達の意見にしたがって、私を箱に入れて、次の市日に隣りの町まで運んで行きました。私の可愛い乳母さん(娘)も、父親の後に乗って、一しょについて来ました。私の入れられた箱は、四方とも塞《ふさ》がれていて、たゞ、出入口の小さな戸口のほかには、空気抜きのため錐《きり》の穴が二つ三つつけてありました。娘は私が寝られるように、箱の中に赤ん坊の蒲団を敷いてくれました。
この箱の旅は、たった半時間の旅行でしたが、身体がひどく揺られたので、私はくた/\になってしまいました。なにしろ、馬は一歩に四十フィートも飛んで、しかも非常に高く跳ねるので、私の箱は、まるで大暴風雨の中を、船が上ったり下ったりするようなものでした。
さて、町に着くと、主人は、行きつけの宿屋の前で馬をおり、しばらく、宿の亭主と相談していました。それから、いろんな準備が出来上ると、東西屋をやとって、町中に触れ歩かしました。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい、世にも不思議な生物、身の丈はスプラクナク(この国の綺麗な動物)ほどもないのに、頭のてっぺんから足の先まで、身体は人間にそっくりそのまゝ、言葉が話せて面白い芸当をいたします。」
と、こんなふうなことをしゃべらせたのです。
私は宿屋で、三百フィート四方もありそうな、大広間につれて行かれ、テーブルの上に乗せられました。私の乳母は、テーブルのそばの腰掛の上に立って、私の面倒をみたり、いろ/\と指図をしてくれるのでした。そのうちに、見物人がぞろ/\と押しかけて来ましたが、あまり混雑するので、主人は一回に三十人だけ見せることに決めました。
私は乳母の言いつけどおりに、テーブルの上を歩きまわったり、私にものを言わそうとして、彼女がいろ/\質問をすると、私は力一ぱいの声で、それに答えるのでした。それから、何度も見物人の方を振り向いて、ていねいにおじぎして、「よくいらっしゃいました。」と言ったり、そのほか、教わったとおりの挨拶をします。そしてグラムダルクリッチが、指貫《ゆびぬき》に酒を注いで渡してくれると、私はみんなのために乾盃をしてやります。かとおもえば、短剣を抜いて、イギリスの剣術使のまねをして、振りまわ
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