蜷bのフリムナップもこの席に一しょに来ていましたが、どういうものか、彼はとき/″\、私の方を見ては、苦い顔をします。しかし私は、そんなことは気にしないで、ひとつみんなを驚かしてやれと思って、思いきりたくさん食べてやりました。これはあとで気づいたのですが、大蔵大臣は、かねてから私に反感を持っていたので、この会食のあとで陛下に言ったらしいのです。
「あんなものを陛下が養っておられては、お金がかゝって大へんです。できるだけ早く、いゝ折を見て、追放なさった方が、国家の利益でございましょう。」
 と、こんなことを言ったものとみえます。

     6 ハイ さようなら

 私はこの国を去るようになったのですが、それを述べる前に、まず、二ヵ月前から、私をねらっていた陰謀のことを語ります。
 私がちょうどブレフスキュ皇帝を訪ねようと、準備しているときのことでした。ある晩、宮廷の、ある大官がやって来ました。(この大官が、以前、皇帝の機嫌を損じたとき、私は彼のために大いに骨折ってやったことがあるのです)彼は車で、こっそり、私の家を訪ねて来たのです。
 ぜひ、内証でお話ししたいことがあると言うので、従者たちは遠ざけました。私は彼を乗せた車をポケットに入れ、召使に命じて戸口をしっかり閉めさせました。それから、テーブルの上に車を置いて、その側に坐りました。一通り挨拶をすませてから、相手の顔を見ると、非常に心配そうな顔色をしているのです。
「一たいどうしたのです。何か変ったことでもあるのですか。」
 と私は尋ねました。
「いや、なにしろ、あなたの名誉と生命にかゝわる問題ですから、これはどうか、ゆっくり聞いてください。」
 と言って、彼は次のように話しだしました。
「まずお知らせしたいのは、あなたのことで、近頃、秘密の会議が数回ひらかれましたが、陛下が、いよ/\決心されたのは、つい二日前のことです。
 御存知のとおり、ボルゴラム提督《ていとく》は、あなたがこの国に到着以来、あなたをひどく憎んでいます。どうしてそんなに怨むのかは、私にはよくわからないのですが、あなたが、ブレフスキュで大手柄をたてられて以来、彼の提督としての人気が減ったように考え、それからいよ/\憎みだしたのでしょう。この人と大蔵大臣のフリムナップ、それからまだあります、陸軍大将リムトック、侍従長ラルコン、高等法院長バルマッフ、これらの人々が一しょになって、あなたを罪人にしようとして、弾劾文《だんがいぶん》を書きました。」
 こゝまで彼の話を聞いていると、私はむしゃくしゃしてきたので、
「何だって、みんなは私を罪人にしようとするのか、私はそんなに……」
 と言いかけました。
「まあ、黙って聞いていてください。」
 と、彼は私を黙らせました。
「私はいつかあなたの御恩になったので、こんなことを打ち明けるのですが、もしかすると、そのために私まで罪になるかわかりません。が、それも覚悟でお知らせするのです。こゝに、その弾劾文の写しを手に入れていますから、今それを読みあげてみましょう。
 
人間山に対する弾劾文
 第一条
 カリン・デファー・プリューン陛下の御代に作られた法律によると、宮城の中で立小便をした者は、死刑にされることになっている。それなのに、人間山は皇后の御殿が火事のとき、火を消すことを口実にして、不埒《ふらち》千万にも、小水で宮殿の火を消しとめた。
 第二条
 人間山はブレフスキュ国の艦隊を引っ張って持って戻ったが、その後、陛下は残りの敵も全部捕えて来いと命令された。陛下はブレフスキュ国を征服して属国にしてしまう、お考えだった。すると人間山は不忠にも、陛下のお考えに反対し、その命令に従わなかった。罪のない人民の自由や生命は奪えません、と、こんなことを言うのであった。
 第三条
 ブレフスキュ国から講和の使節がやって来たとき、その使節は敵国の皇帝の使であることを知っていながら、人間山は、まるで叛逆者のように、これを助けたり慰めたりした。
 第四条
 人間山は近頃、ブレフスキュ国へ渡ろうとして航海の準備をしている。陛下はたゞ、口先で、ちょっと許可されただけなのだ。それをいゝことにして、彼は敵国の皇帝と会い、敵国を助けようと企んでいる。

 このほかにもまだあるのですが、主なところを今読みあげてみたのです。
 ところで、あなたの罪状について、この弾劾文をめぐって、何度も議論が行われたのですが、陛下は、あなたがこれまで立派な手柄をたてゝいられるので、まあ、大目にみて罪は軽くしてやれ、と言われるのです。しかし、大蔵大臣と提督の二人は、夜中にあなたの家に火をつけて、焼き殺してしまった方がいゝ、と、ひどいことを言うのです。それから、陸軍大将は、そのときには毒矢を持った二万の兵をひきいて、あなたの手や顔
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